東洋蘭のウイルス(1)

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     ウイルスは菌やバクテリアとは全く別物で、はるかに粒子が細かく普通の顕微鏡では見る事ができません。
     植物の細胞の中で増殖し濃度が上がると葉にモザイク状の斑点が現れ、さらに重症になると茶色の壊死斑に
     変わることがあります。ウイルスに感染されると、現在の段階では薬剤等による治療は不可能です。
     長い間ランを栽培しているとウイルスの心配は避けてとおれません。少しでも初心者の方にお役にたてれば
     と思い20数年前の資料を抜粋してみます。
     

東洋蘭のウイルス

  植物のウイルスの種類は世界中で約800種が知られていて、その中で日本では約200種が確認されている
  そうです。それでは東洋蘭に感染するウイルスはどれくらいあるのでしょうか。
  現在では次の4種類が確認されているようです。

  (1)ORSV(オドントグロッサム・リングスポット・ウイルス)
    このウイルスは感染してから症状が表れるまでの期間(潜伏期間)が長く、早いもので1ヶ月以上、普通は
    半年から1年くらいかかります。
    例えば秋の株分けの時に感染すれば翌年の夏頃の新葉の伸長期に発病してきます。時には翌々年の夏頃
    に出てくる事もあります。葉や根が枯れても、その中のウィルスは半年〜1年くらい感染能力をもちつづける
    非常に強い伝染力を持つウイルスですが、新芽の成長に影響を与えて作落ちは起こしても、株が枯死に
    いたることはまずないようです。
    病徴は基本的には葉の緑がうすくなって、白黄色ないし淡い緑白色の斑点(退緑班)が出ます。その形は
    円形ではなく、条状か絣状ないしくさび状が普通です。
    新葉によく表れますが、葉が生長してくると緑が濃くなってくることもあって、肉眼ではよく見えない不明瞭な
    症状になります。またこのウイルスは壊疽斑点はでません。
    春蘭などでチラといわれているものは、大体このウイルスのことです。

  (2)CYMV(シンビジウム・モザイク・ウイルス)
    このウイルスは、感染してから発病するまでの期間がORSVよりも短く、新芽の伸長期に感染したものは
    大体1ヶ月で症状が出てきます。葉や根が枯れてしまっても1〜2ヶ月は感染能力があるようです。
    葉や新芽に表れた症状は、ORSVよりも激しくでます。
    病徴は新葉に白黄色ないし淡緑白色の、少し長形の退緑班が出てきて、それから明瞭なモザイク状になり
    葉の裏または表にしばしば褐色の斑点が出てきます。日が経つにつれて退緑班は不明瞭になって黒褐色の
    えそ斑点だけが残るようになります。
    このウイルスにかかった蘭は一般に作落ちが激しくなるばかりでなく、時には新芽が枯れることがあります。
    昔から「キララ」とか「テン」といわれているものは大体このウイルスです。

    以上の二つが主なウイルスですが、いずれも肉眼で見て他の病気や、生理的または物理的障害による症状
    との見分けが難しいものです。
    次の二つのウイルスも時々見かけられているようです。
    
  (3)OFV(ラン・えそ班紋ウイルス)

  (4)CYMMV(シンビジウム・マイルドモザイク・ウイルス) 
  

伝染方法

  ウイルスは他の病気の病原菌(カビやバクテリア等)のように、自分の力で植物の組織を破ってその中に侵入
  する力を持っておりません。
  ウイルスがランの組織を侵してその中に入るためには、二つの条件が必要になります。
  その一つは、ラン自体の組織(葉とか根とかバルブ等)に、何らかの力でキズが出来なければ、ウイルスは
  侵入することが出来ません。
  キズは株分けや植え替えの時にバルブを外したり、葉や根を切ったりする時に使うハサミなどの刃物でできる
  ばかりでなく、根が折れたり、用土で擦られたり、葉と葉が擦れ合ったりしても肉眼では見えないキズが
  できるチャンスはいくらでもあります。
  もう一つの条件は、ランの組織にできたキズぐちへ、何らかの方法でウイルスが運び込まなければ
  なりません。
  いいかえれば、誰かに入り口をあけて貰い、そしてまた誰かに運搬して貰わないと、ウイルス自信の力では
  ランに感染できないわけですが、この二つの条件を満たすチャンスは、例えば株分け植え替えの時に、
  ウイルスにかかっている株をハサミなどの刃物で切ると、その切り口から汁液がでてハサミの刃に付着
  します。このハサミで次に健全なランの株分けをしたり根を切ったりすると、その株自体にキズぐちができる
  と同時に、ハサミの刃に付着しているウイルスは楽々と健全株の組織の中へ運び込まれて、感染が起こる
  わけです。
  また、用土や水苔の中でもウイルスは1年くらいは生きているといわれますから、ウイルス株が植えられて
  いた用土や水苔で、そのまま健全株を植えるとウイルスが伝染することになります。
  一般の植物のウイルスは、アブラムシ等の昆虫によって媒介されるものが多いのですが東洋蘭のウイルス
  は、OFVを除いては媒介昆虫はいないといわれています。
  
  従って、東洋蘭のウイルスは主に株分けや植え替え時における「接触伝染」で広がります。
  言い換えれば、ウイルスが伝染するための条件つくりや感染のお手伝いは、ランを作っている人間だと
  いうことです。
  このことは、東洋蘭のウイルスを予防する上で極めて大切なポイントとなります。

予防方法等については次回に記します。         (H.17.12.13)

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